怪獣と幽霊

colormal イエナガによる雑記

猫を降ろす

 この間、休日出勤の後に一人でお酒を飲みに行った。個人的に大好きな居酒屋なので、ひとしきり気になるメニューを頼み、隣のおばさんに気になるから一口分けてくれとせがまれたり、キャパシティを超えた飲酒を済ませてお店を出た。

19時。完全に酩酊していたけど、早い時間に帰ったおかげで最寄駅のベンチで震えながらいろはす500mlを1時間かけて飲むことで回復出来た。

 

 大阪の古いベッドタウン(今は若い人がおらず墓地の前段階近い)に住んでいて、電車を降りた後はバスに乗らないと帰れない。20時すぎのバス停で寒いさむいと漏らしつつ待っていると、猫の声がする。多分飲みすぎたな。駅で猫なんて見たことないしな、とは思いつつもずっと頭の上から猫の声がする。

 猫がバス停の庇を支える柱の上にいた。どこから乗ったのか分からないけど、屋根と細い柱の間で器用に座り込んで鳴いている。子猫と成猫の間くらいの大きさだ。屋根の高さは2m少し。猫ならこれくらい降りたってどうってことないだろうとは思いつつも、延々と鳴いているのでちょっと気の毒になってくる。関係ないけど僕の父は2mの屋根からジャンプで降りようとし、かかとを複雑骨折したことがある。

田舎名物、放置されているスーパーのカゴを持ち上げて猫に飛び降りるよう誘導してみるけど効果なし。この辺りでなぜか少し躍起になって、バス停に少しよじ登ってさらにカゴを近づけたりしてみる。

 

 手を変え品を変え、色々やっているうちに周りに人だかりが出来てきた。成人男性が酔っ払ってバス停によじ登っている先に猫、その周りに後期高齢者。人だかりからちょっと内気っぽい女子高生が出てきて「近くの店から脚立を借りてきます」と話しかけてきた。

断るタイミングを失っているうちに、女子高生がスターバックスの店員を連れて戻ってきた。店員から椅子を渡され、それに乗ってさらにカゴを猫に近づけてみるけどこれもダメ。さらに目立ってしまったあたりで、次は上下ジャージのカップルが「これを使ってください」と猫用のささみを渡してきた。

ささみを片手に、もう一方に買い物カゴをもってスターバックスの椅子の上に立ち、これで椅子から落ちたら通勤中扱いで労災は適用されるのかなんて考える。猫はささみだけ奪い、効果なし。買い物帰りの30代くらいの女性も何故か参加してきた。

 

 酔っ払ってささみと買いものカゴを持ちながら、ジャージ姿の金髪に支えられたスターバックスの椅子の上に立ち、猫に向かっておいでおいで唱える成人男性とその仲間たち。全員後に引けなくなり、小一時間粘る。ジャージの彼女がYouTubeで猫の鳴き声を再生し、女子高生は駅の警備員を探し、主婦は心配してくれる。もういいです、猫は多分降りますとは言えない。

 

 結局猫は柱からすり抜けて、屋根の上に行ってしまって見失った。猫は足元にいる人たちを怖がっていたのかもしれない、いやもしかしたら親猫を呼ぶために鳴いていたのかも、胸に支えつつ家に帰って床で寝たせいでひいた鼻風邪が一週間経っても治らない。